第0編 「詭弁の心得」
さて——
君たちは言葉の危うさについて理解しているかな——
言葉は自分の意思を伝えるためのもの
言葉はコミュニケーションの手段
そう考えている人も多いだろう
でも、それは違う
根本から違う
——言葉は影響を与えるためのものなんだよ
君たちの発する言葉が
君たちの囁く声が
君たちの綴る文字が
誰かの耳に届き、誰かの目に止まり
その人の生きる世界に影響を与える
善くも悪くも影響を与える
解釈、あるいは理解と言ってもいい
それがあって初めて言葉は言葉に成り得る
考えたことはあるかな
君の言葉が相手にどんな影響を与えるのか
相手の言葉が君にどんな影響を与えるのか
何気ない会話が相手を傷つける
囁く愛が心をざわつかせる
決死の決意が魂を奮い立たせる
巧妙な偽りが人生を狂わせる
言葉そのものには意味も価値もありはしない
あるのはどんな影響を与えるか
ただそれだけ
だからこそ、自覚しなければいけない
——君はその言葉をどう受け止めるのかを
世の中に絶対的な真実なんてのは存在しない
今日の常識が明日の常識とは限らないんだから
地球の周りを廻っていた太陽は
いつの日からか地球の廻る中心になった
大空を翔る鳥を見上げていた人は
いつの日からかそれを追い越すようになった
りんごはいつまで地に落ちるかわからないし
その言葉はいつまで真実かわからない
そう、重要なのは
——何が真実かではなく、何を信じるか
さあ、これから語られる詭弁は真実からは程遠い
世界を捉える一面でしかなく
多くの矛盾を抱え
善悪の区別もなく
無慈悲に綴られる危うい言葉の羅列だ
人を詭き、詭り、詭く言葉の数々
それは君を励ますかもしれない
それは君を悲しませるかもしれない
常識や価値観を揺さぶるかもしれない
時に甘い夢を魅せ
時に暗い絶望に突き落とすかもしれない
なにを信じるかは君に任せよう
どんな影響を受けるかは君に任せよう
大いなる期待 と 最大限の警戒 を携えて
——良き詭弁との出会いを
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