第9編 「愚国民」

第9編 「愚国民」

平和ボケした愚かな国の民よ
ごきげんよう—

今日ものうのうと無為な一日を送っているか?
安全で便利で恵まれた環境の中で流される様に生きるのは
さぞ心地の良いものだろう?

食べ物に困ることもなく、雨風凌げて、安心して眠れる
人と笑い合い、週末の娯楽を待ち侘びている
なんとも贅沢な日常よの
そなたらの様な愚か者にはもったいない生活よ

それとも、
こんなものでは足りないと
もっと楽をさせろと
不遇を託つのかの?
物を安くしろ、金を配れ
あれを認めろ、これを許すな
奴を裁け、自分を助けろ
自分を救い、自分を守れ と—

フフッ
その浅ましい願望が手に取る様に伝わってくるぞ?
もっと自分に優しい国にしろと言いたいのであろう?
今の政治は自分にとっては都合が悪い
だからもっと自分が優遇される政治をしろと—

なんとも素晴らしい—
まさに人間の鏡よの—
恥も恐れぬその独善、見事なものよ—
まして
他人がそのようなことを言えば
寄ってたかって非難を浴びせるのであろう?
自分のことは棚に上げて—
いや、棚どころかまるで
天守閣にでも上がっているような物腰で—
たしかに他人を見下すにはちょうど良いかもしれん—

しかしそれだけの不満と欲望があるのだ、
当然そのための行動を起こしているのであろう?
まさか、口では不満や理想を唱えながら
自分ではなにもしないなんて
無責任なことはしてはいまいな—

———

だから愚かだと言っているのだ
政治家を批判する者のなかで
自ら行動を起こしている者はどれだけおる?
より理想に近づくために
自ら情報を集め、精査し、
足らぬ頭で考えて、行動を起こしている者が
いったいどれだけおるのだろうな?

そなたはどうだ?

まさか、
SNSで不満を拡散しているだとか
違う政治家に投票したのだとか
そんなぬるい釈明はしてくれるなよ?
そんな微々たるものではカエルも茹で上がらぬぞ?
ましてや税金を払っているのだからなんとかしろ
だなんて愚にもつかない主張は勘弁して欲しいの
愚か過ぎて笑えもせん—


メディアに流れるデモや座り込みを
そなたはどう見る?

反社会的行動か—
暴力的な主張行為か—
あるいは弱者の叫びか—

その者らの行動は
抱える問題も違えば、
前提も背景も手段も違う
もちろんその目的も違う
それぞれに理由があって、
それぞれに思うところがあるのであろう
一枚岩でもなければ、一筋縄でもいかない
複雑で不完全な声の集まりよ
自らの主張のために周囲に迷惑をかけても
それは正義の蛮行として飲み込むのであろう

しかしそれでも—
その者らは行動を起こしている
何もせずにいられないのであろう
自ら望むものを手に入れるために—
必ずしもそれが正しいとは余は思わぬが、
少なくとも野次を飛ばすだけの傍観者よりは
いくらかマシというものであろう
画面越しに何の労力もリスクも負わず
ただ人の行いにケチをつけるだけの
臆病者よりずっといい—
周りの言葉に流され、自分で努力もせず、
不平不満を垂れ流すだけの人間など
救ってやる価値などないであろう

頭の足らぬそなたにもわかるよう
イメージしやすいように例えてやろう
そなたのやっていることはこうだ—

—あなたの作る料理は不味くて食べられたものではない
—もっと私好みのおいしい料理を出しなさい
—でも、どう不味いのかは教えない
—私の好みも教えない
—そして、もちろん私は料理を作らない
—あなたが考えて、私好みの料理を出しなさい
—あなたの苦労や頑張りなど知ったことではない
—とにかく私好みの食事を作りなさい
—それができないなら
—料理を作るのなんてやめてしまいなさい

フフッ
我ながら的確に表現したものよ
しかしこれは、余でもさすがに怖気の走る身勝手さよ
加えて言うなら
これを面と向かわず画面越しに述べるのだから
これはもう狂気の沙汰であろう
心ある人の所業とは思えん—


不満があるなら自ら行動すべきで
自分でできないのなら
人の行いに文句を言う筋合いはない—

人の考えを否定するならより優れた代案を出すべきで
それができないなら
甘んじて受け入れるしかない—

——よいか、平和ボケした愚かな国の民よ
世界には争いや紛争、デモで荒れている国が多くある
それに比べれば、この国は比較的穏やかに見えるかもしれない
しかし、争いがないのは平和の象徴ではない—
それは「考えを持たない愚か者の国」か
「行動する勇気のない臆病者の国」よ

待っていれば生きやすくなるほど
世の中は都合よくできてはおらぬ
何かを望むのならば
何かを成さねばならぬ
もちろん、暴力が変革のすべてではない
肝要なのは賢く行動を起こすことよ

そなたも不満があるのであれば、
手始めに足らぬ頭で詭弁でもこしらえて
人の心を動かしてみてはどうかの—

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