第3編 「伝う言葉」

第3編 「伝う言葉」

——なぁ、「恋」と「愛」の違いって知ってる?

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昔ね、わたしにそんなことを聞いてきた人がいたの
わたしがまだ学生だったときのはなし——

その人はなんていうか
すごく冷めてる人でね

優しくて、落ち着いてて
頼れる人って感じだったんだけど、
サバサバしてるというか
あんまり恋愛とかには興味ないって感じの
そんな感じの人——

その人にね
友達の恋愛相談のはなしを振ったの

別に真剣に相談したわけじゃないし
雑談のつもりで振ったはなしだったんだけど、
つまらなそうに相槌打ちながら
ひと通り聞き終えて、それで言ったの——

——なぁ、「恋」と「愛」の違いって知ってる?


結局その答えは教えてくれなかったんだけどね

たぶん相談にのるつもりもなかったんだろうし
わたしの答えを期待してたわけでもないんだろうけど

わたしはずっとそれが忘れられなくて
その人が卒業したあともよく思い出してた——


ねぇ、あなたはわかる?
——「恋」と「愛」の違い


わたしは今もその答えを見つけられないんだけど
それでも、ひとつわかるのは—

——それが誰かを大切に思う言葉だってこと


言葉は便利で複雑なものだけど

誰かになにかを伝えたい—
形にならない思いを表現したい—

そういう根っこの部分があって
いろんな言葉が生まれてくると思うの


べつに言葉にすることに意味がないって
言ってるわけではないよ?
言葉は人を喜ばせるし、励ましもする
傷つけることもあるし、悲しませることもある
人を幸せにも、不幸にもする——

言葉はそれだけで
人の人生を変えてしまうだけの力がある
それはいい意味でも、悪い意味でもね

でもね、
本当に大切なのは

——その言葉で何を伝えたいのか

だと思うんだ



世界には数えきれないくらいの言葉があって

きっとその全部を知ることはできないし
その全部を理解することはできない

思うように伝わらないし
まっすぐ受け止めるのも難しい—



でもそれってすごくロマンチックじゃない?

言葉の数だけ想いがある

いつの時代、どこの世界にも
伝えたい気持ちがあって
それを表現する方法を探してる

積もった想いは形にならなくて—
叫びたい気持ちは声にならなくて—
わかってもらいたいのに届かなくて—
わかってあげたいのに受け止められなくて—
わかり合いたいのにぶつかって—
わかっていたはずなのにすれ違って—

それでも
それでも諦めきれないから言葉を探してる——

もっと伝わる言葉を
もっとわかり合える言葉を

ずっとずっと、探してる——



だからね
どんな言葉で表現するかはそれぞれだけど
どんな気持ちを伝えたいかが大事なんだよ

「恋」も「愛」も、その言葉は違えど
心にあるのはきっと同じものだから——



まあでも、
それでもあの人は納得しないだろうけどね
そんなのは詭弁だ—って
つまらなそうに言うんだろうけど

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