第5編 「幸せのカクテル」

第5編 「幸せのカクテル」

—私はこの時間が好きなのよ

こうして誰とも向かい合わず
カウンターのグラスと二人きり


昼間の喧騒が嘘みたいに静かで
まるで世界の裏っ側に来たみたい

この時間が一番幸せ—

お酒が入るとついつい
思ってもないことまで口にしちゃうんだけどね

———

ねぇ、あなたは今——幸せ?


これはまぁ難しい質問よね
そもそも幸せがなにかっていうのも曖昧だし
きっと人それぞれだものね

世界中の人たちが幸せになれれば
それが何よりなんでしょうけど
そう簡単にはね—
互いが互いの幸せを願い続けるっていうのは理想論よ
願うだけならまだしも
行動に移すなら尚更—


——でもね、それでいいのよ


誰かの幸せを願うことは、たしかに美しいものだけど
それは無理をしてまですることではないわ

家族、恋人、友人、恩師や応援してる人
あるいはもっと多くの人たちの幸せは、
きっとあなたの手には余るものよ
きっと誰の手にだって余るものなのよ

大切な人を自分の手で幸せにしてあげたいなんて
とても傲慢な思い上がり—
自分を犠牲にしてまで誰かの幸せの願うなんてのは
ただの自己満足でしかない—


—無理はしなくていい 格好つけなくていい
—自分の幸せを一生懸命願えばいい
—それでいいのよ


——人の幸せっていうのはこのカクテルのようなものよ
大きさも違う—
形も違う—
そこに注ぐものも違う—
みんなバラバラでどれも間違ってない—

そして私たちは自分のグラスを満たしていくの
楽しい思い出と—
苦い経験と—
感謝の優しさと—
孤独の寂しさと—
苦労の汗と—
悲しみの涙と—
希望と—
絶望と—
羨望と—
失望と—
尊敬と—
嫉妬と—
挑戦と—
失敗と—
夢—
理想—
後悔—
挫折—

もっと、もっともっと多くの想いを混ぜて
幸せのグラスを満たしていく


そうして自分のグラスを満たせたなら
——溢れた幸せを大切な人に分けてあげればいい

私たちの幸せはそうやってつながっていけばいいのよ

———

さて、ついつい語ってしまったけど、
お酒の席での詭弁だから聞き流してちょうだい

私は私の幸せな時間を満たすことにするわ

——マスター
——シンデレラをもう一杯

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