第8編 「正義の味方」

第8編 「正義の味方」

—己の信念を貫き
—悪を懲らしめ
—弱きを助け
—強きを挫く

そんなかっこいい存在に誰もが
一度は憧れたはずだ

男なら尚更な

でも、いつしかそんな思いはなくなっていく
馬鹿馬鹿しくなっていく

ガキの頃は目を輝かせて憧れていた存在も
大人になるにつれて口にするのも恥ずかしくなる
漫画や映画の主人公のようにはなれないってな

大人になるってのは
現実に順応することだと思ってんだろ?
ちゃんと現実が見えてる人間が立派なんだって

否定はしねぇけどよ—

歳をとるにつれて目は悪くなるもんだ
眼鏡をかけるようになるのも当然といえば当然か
随分と曇った色眼鏡みたいだけどよ—


そんなご立派な大人たちに朗報だぜ?

俺が断言してやる
お前はずっと昔から正義の味方だ—
そしてこれからもずっと—
別にご機嫌を取ろうってわけじゃない
これは事実だ
正しく
崇高で
気高く
そして美しい
お前は正義の味方で 正義の体現者だ

なんたって
この世に絶対的な悪なんて存在しないんだからな—


世界に悪は存在しない
悪人なんていない
善人しかいない
世界には正義しか存在しない
だからお前は間違いなく正義の味方だ
簡単な話だろ?

人間ってのは自分の正義のためにしか
行動できない生き物だ
自分が正しいと思ったこと
そうすべきと判断したことにしか生きられない
そういう風にプログラムされてんのさ

弱い人を助けようとするのも
それが正しいと思うからすること—

困っている人に手を差し伸べるのも
そうすべきと判断したからすること—

必死になって努力をするのも
それが未来のためになると期待するからすること—

おいしいものを食べるのも
それで満足感が得られると予想するからすること—

恋人に嘘をつくのも
それが相手を守る手段だと考えるからすること—

友人の陰口をたたくのも
それが会話を盛り上げるきっかけになるからすること—

クラスメイトをいじめるのも
それで優越感を感じられるからすること—

子供に手をあげるのも
それが躾だと確信しているからすること—

通りすがりの人を斬りつけるのも
それで快感を得られるからすること—

戦争で引き金を引くのも
それが国を守ることだと疑わないからすること—


悪事を働くのも
悪人であることが正義だと信じるからすること—


—要するに
どんなに醜悪に見える行いも
本人にとってはそれが正義なんだよ

世の中に悪なんて存在しない
あるのは形の異なる正義だけ—

——そして
——互いの正義が矛盾した時
——人はそれを「悪」と呼ぶ

「正義の味方」とは即ち——


おめでとう—
お前は紛れもなく正義の味方だよ
これまでも もちろん、これからもな

だからって決して「悪」だと呼んでくれるなよ
俺の正義の詭弁をな—


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